久保清隆のブログ

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井村雅代 シンクロ日本代表ヘッドコーチが語った「リオ五輪の裏側」と「人の育て方」

※許可を得て撮影しています。

先日、ファイテン ファンの集いに参加し、そこでシンクロ日本代表の井村ヘッドコーチの講演を聴いた。 テーマは「人を育てる」ということについて。

話を聞いて、すごく厳しい人であり、すごく愛のある人だと感じた。

以下、お話頂いた内容。

リオオリンピックの裏側

井村ヘッドコーチは、オリンピック出場が次回で10回目。 反省があるから何度も出ている。 金メダルを取っていたらやめていたかもしれないらしい。

前回のリオ五輪は今までで最悪のオリンピックだった。

選手村での生活が厳しかった。 トイレ詰まったり、お湯が出なくなったりは当たり前。 さらに配管が壊れて階段を水が流れるとか。 そのような環境の中で心地よく生きる方法を考えた。

食事もひどい。 野菜は茶色、バナナは真っ黒に変色している。

でも、環境はどの国の人も皆同じ。 この環境の中から金メダリストは生まれると選手に言った。

一番ひどかったのはプールの水。緑色になった。 つまり、苔が生えていった。 シンクロにとって水の透明度は大切。 壁で自分の位置を確認する。 水が汚くても目を開けなくてはいけない。 しかし、途中で微生物が発生していた。 それを飲むと腸炎にもなって体調を崩してしまう。

本部に頼んで、ようやく水を入れ替えてもらえることになった。 練習用のプールから本番用へ水を移動させる。 水は値段が高いので練習用プールにその後水は補充されず、練習用のプールは使えなくなった。

条件は同じだから、文句は言わなかった。 しっかり準備してきた国は潰れなかった。 ロシアが強かった。2番目にしっかり準備できていたのは日本だと思う。

文句言ってる人はまだエネルギーが余ってる。 本当に苦しくなると人はだまる。 厳しい状況を受け入れて、どうやって解決するかを考えることが大切。

文句を言ってる自分に気づいた時は、考えを改める。

「こんなひどいオリンピックはありえない」と思った時点で終わる。 これがリオオリンピックなんだと受け入れる。

人の育て方

無理をしなさい

井村ヘッドコーチは、中国を教えた期間があった。 その時は日本の人からたくさんの批判を受けた。 ふたたび日本に戻ってきて日本人に教えることになった。 久しぶりに接した日本人選手は、過去の日本人選手と全然違った。 考え方が大きく変わっていた。

言葉の意味が通じずに困った。 皆と一緒がいい、1人目立つのは嫌、というコが多い。

最初に叱ったのは、胸を張って歩きなさい、ということ。 なぜ怒っているのかを選手たちが理解できなかった。 アスリートとして練習態度もおかしかった。練習への取り組みも、気持ちの持ち方もおかしかった。 原因は、ゆとり教育とスマホのせいだと思っている。

試合は試合の前に始まっている。 弱そうに見えて強かったところはない。 強そうでやっぱり強かった、というチームが多い。

教えるときに一番使った言葉は、「無理をしなさい」。 もちろん、やりすぎて潰れないようにラインを見極めることは大切。

努力は嘘はつかない、自分の可能性を信じなさいとも言った。

心技体の話もした。 心技体が全部揃うことはない。何が足りないかを考え、どう補うかを考えることが大切。 例えば、年齢があがると体力は衰えるが、それを気持ちと技術で補おうとか。

1mmの努力

目標の話もした。 日々の叶えられる目標を持つことが大切。 昨日より良くなっているという体感を持たせるようにした。

例えば、垂直跳びが40cmの人が三ヶ月後に50cm飛べるようになりなさいと言われると難しく感じるが、明日今日より1mm高く飛びなさいと言われるとできそうな気がする。 頑張ればできそうと感じるように目標を細かくするようにした。

丁寧にしない

失敗しないために教えていたことは、丁寧にしないこと。 失敗したくない時、普通は丁寧にすることが多いが、失敗する時間が増えてしまうから一瞬でやるように練習させた。

リオオリンピック本番での選手たちの出来はどうだったか。 練習通りだった。

選手を練習で追い込んだ責任はメダルをとらせることでとる。

一流のものをつくる

三流は道に流される。 二流は道を選ぶ。 一流は道を作る。

何かの真似をするのではなく、一流のものを作りたいという想いがあった。

銅メダルを取ったからもっといいもの(金メダル)を目指そうと思っている。 止まっている時間はない。

オリンピックで勝つためにしたこと

オリンピックでメダルと取るために、色々な工夫をした。 日本は他の国より身長が小さいから、他の国とは違う曲の構成にした。

勝つための曲、構成を考えると、最後元気になる曲の方がいい点もらえそうだからそのように作曲してもらった。

また、手拍子のリズムは心臓の鼓動に近いものだとズレにくい。 そのほうが観客の人が手拍子をしやすくなる。そのため、そのようなリズムのものにしてもらった。

水着にもこだわった。 白い水着を使う場合は透けてしまうので、透けないように普通は裏地をつける。しかしそうすると重くなってしまう。 そこで、一枚仕立てでも透けない、薄くて軽いものを作ってもらった。

また、水着は発色が良いものにしてもらった。 屋外だから輝いて見える、大きく見せることができる、 さらに足の長さの違いを気にならないようにすることもできると思った。 そのときの日本チームは、背の高さがばらばらで、水面上に足を出した際に長さがバラバラに見えてしまうのでよくなかった。 その問題を解決するために、足に注目されないようにすればよいのではないかと思いついた。 そこで、目立つ水着にし、足を出す際にはできるだけ水着も出すように指導した。 水着が鮮やかだと水着に目がいって、足の長さが気にならないのではないかと思った。 もし演技をみて足の長さが気にならなければ、その作戦が功を奏している。

水着につけるスワロフスキーは選手のお母さんに縫いつけてもらった。 戦時中、戦地から元気に帰ってくるように作られた千人針というお守りがあった。 オリンピックはある意味戦地のようなもの。そこで、選手のお母さんに、想いを込めて縫い付けてもらった。 特別に作ってもらった貴重な水着に針を通すのは怖かったけど、自分の子供が間違わないように、良い演技ができるようにと想いを込めて縫ったと言っていた。 人が支えられるのは人の心。

もし失敗しても失望することがあっても、正しいことをすることが大切。 やけにならずに、正しいことをやり続けると周りから認められるようになる。

「仕方がないはずはない」といつも唱えている。 そうすると、何か解決方法を思いつく。

競技の前に最後にかける言葉はその時の選手のことを考えていう言葉が一番いい。 元から考えて言ったことは、中国のコーチをしていた時の北京オリンピックの決勝の時だけ。 ダメなコーチは自分の言いたいことを全部言う。それだとただの自己満足。選手に伝わらない。 選手は緊張してるので伝えることは1つか2つでいい。 リオオリンピックのときには、以下のようなことを伝えた。 「今までで最もハードな、中身の濃い練習をあなたたちに課してきた。よそのどの国よりも、単に時間が長いだけでなく過酷な練習をしてきた。終わったあとに、悔いが残るような演技だけはするな。これから始まるたった1回の演技にかけてこい。攻めろ。」

リオオリンピックでのシンクロ競技の映像

リオオリンピックの裏側のお話を聞いて競技を見ると、何も知らずに見るよりもより面白く、より感銘を受ける。 東京オリンピックも井村さんがコーチをするそうなので、楽しみ。

井村雅代コーチの結果を出す力

井村雅代コーチの結果を出す力