先日、東大で行われた知の構造化プロジェクトのシンポジウムに参加してきた。
そこで聞いた内容はどれも面白かったんだけど、全部書くと長くなるので、特に興味を持った部分を中心にまとめる。
目次
知の構造化はなぜ必要なのか
- 昔は情報があまり多くなかったので、全体を見渡すことができた。
- しかし、現在は専門化と細分化により、深い狭い情報がばらばらで存在している。専門家は自分の分野のこと以外はよくわからない、という状況になってきた。情報が散乱してきている。
- そこで、ばらばらのものを構造化することによって、全体を見渡すことを可能にする必要がある。
- 知の構造化=大量の情報+構造化技術+価値創造
- 知の構造化プロジェクトの目的は、知識と知識、技術と技術の結びつきを可視化することによって、人の活動を支援すること
Web集合知時代の情報力
橋本大也さんのお話。
集合知
- 多様性は能力に勝る
- 難しい問題を違う観点から見たら易しい問題だった
- 文脈をつくることで意味が作られる
- コミュニティがコンテクストを作り、コンテンツ(意味のある情報)を生み出す
- 企業がクラウド(crowd)にアイデアを募集して成功している
- InnoCentive | Open Innovation & Crowdsourcing Pioneersというサイト
- 企業が研究開発で行き詰まった時、これ出来る人いる?と世界に発信して解決できる人を探す
- 年間8万ドルで登録
- P&Gはプリングルスに絵を描く技術を持っている人を見つけ、世界に販売することができた。
- 発明
- エジソン
- 専門知
- 膨大な試行錯誤
- 現代のエジソン
- ネットで呼びかけ
- エジソン
- クラウドソーシング(crowd sourcing)
- アマゾンのAmazon Mechanical Turk - Welcome
- 作業自体は簡単だけど、膨大な量があり、かつ人間を必要な(機械処理は出来ない)タスク(Human Intelligence Tasks:HITs)を、Webの力を借りて行うために、ちょっとした仕事をやってくれる人を集合させたサイト。
- 集まると膨大な労働力になる。
- アマゾンのAmazon Mechanical Turk - Welcome
- 投資
- Converge Venture Partners // an early stage VC Fund
- 75人のベテラン起業家集団
- 投資方法が独特
- まず、専門家タイプの人が話を聞き、次にジェネラリストが話を聞き、そこを通過したら全体にプレゼンをしてもらい、エンジェルたちが個別に小切手で投資する。
- この方法をとることで、声の大きい人に全体が引きずられず投資ができる。
- Converge Venture Partners // an early stage VC Fund
- コミュニティによる知識創造
2つのキーワード
-
- Diversity(人々の多様性)
- Communication(活発なコミュニケーション)
新時代に必要な7つの力
- うろ覚え力
- 知識の有無や広がりをぼんやりと広範囲に把握していることが重要
- 詳しいことはネットで調べることができる
- 愛嬌力
- 渋谷で外国人に道を聞かれたらついつい教えてしまう
- 弱さも可愛さになる
- 人を助ける能力よりも助けられる能力
- 数人を助けることができる人より、1万人に助けてもらえる人の方が強い
- 弱い紐帯力
- 価値ある情報伝達やイノベーションの伝播には、家族や親友、職場の仲間のような強いネットワーク(強い紐帯)より、ちょっとした知り合いや知人の知人のような弱いネットワーク(弱い紐帯)が重要
- 弱い紐帯は、強いネットワーク同士をつなげる“ブリッジ”として働き、情報が広く伝播する上で重要な役割を果たす
- 弱い関係性が大きなチャンスや利益をもたらす
- 遠方の、業界の違う、めったに会わない人が、転職、昇進、イノベーションの機会をもたらす
- ITのソーシャルネットワークは、弱い紐帯を効率的に管理
- Twitterなどがいい例
- 包容力
- Diversity & Inclusion
- 多様性を受け入れる包容力が必要
- 誰も排除しない原則が知識流通を加速させる
- 社会経済と面目保持(Face Work)が協力関係の基本
- 助ける人は感情的に一段高い場所にいて、助けられる人は感情的に一段低い場所にいるという心理的な違いが助けることの弊害になる。この感情の不均衡を軽減することが良好な支援関係には必要。
- Diversity & Inclusion
- 芋づる工作力
- 芋づる式に知識を引き出す能力
- タグや属性値で芋づる式に検索し、知識を得る。
- これまでの専門家は一人で構造化
- 今の時代では、作ってみて、皆の意見を聞いて作りかえる方が凄くなる
- 読み替え力
- テクストは、同じ言葉でありながら別の文脈に置き換え、再創造される
- 読み替えによるWeb豊饒化
- ブログの引用
- TwitterのReTweet
- ソーシャルブックマークコメント
- 文脈から切り離され、我田引水に引用される
- 多少の勘違いこそ常態
- デジタルの無秩序が持つ力、有用な無秩序。Wikipediaなど。
- 何でもあり力
- 進歩を妨げない唯一の原理はanything goes(何でもあり)である。
- イノベーションは、中心ではなく周縁から生まれる
- 中心にいる人は今までを守ろうとするから、イノベーションは生まれない
- 周縁にいる人は現実に直面しているので、イノベーションが生まれやすい
感想
さすがは書評ブロガー、といった内容だった。
このプレゼンの中でかなりの数の本を、橋本さんのフィルターを通して紹介されていて、楽しく聞くことができた。
書籍を通して集合知の例をあげたり説明をして下さり、最後は橋本さんの考える今の時代に必要な7つの能力のお話をして下さった。
その一つ一つの力に確かにそうだなぁと思った。
今後これらの力を磨くようにしていきたい。
Microsoft Bingの概要と方向性
次はマイクロソフトの鈴木慶一郎さんのお話。
マイクロソフトでの開発とBingの戦略について教えて下さった。
マイクロソフトでの開発
- コンセプト
- Triad(3人組という意味)
- PMとSDEとSDET(SoftwareDeveloperEngineerTest)で一つのユニットとする
- Diversity is the value.
- Empower individuals
- 皆が対等に意見を言える環境
- Triad(3人組という意味)
- 最近のトレンド
- 才能ある中国人とインド人がたくさんいる
- 日本人は少ない
- EngineeringとBusiness両方出来る人が増えてきている
- 自分たちの戦う相手は、日本人ではなくもの凄い倍率を勝ち抜いてきた中国人やインド人であることを認識し、危機感を持つ必要がある。
Bingのビジョン
- Create Human Mind Reader
- Empower people with knowledge
Googleの検索結果に満足する人は増えてない。
参入するチャンスはある。
現在の検索の問題点
- Imprecise Result(不正確な結果)
- 検索結果の精度が低い
- Refinements(絞り込み)
- 絞り込みのための機能が不足している
- 目的のキーワードと一緒に検索される候補の見せ方がいまいち
- Lengthy Tasks
- 50% of time spent on 5% of queries
- 検索にかなり時間がかかるクエリがある
問題点への対策
- Userの意図をつかむため、結果ページの左にRefinementを入れるようにする
- どのクエリに時間がかかっているのかを同定し、その検索を改善する
感想
マイクロソフトの開発体制について少しお話が聞けたのがよかった。
フラットな体制でやっているということがわかった。多様性を重視し、それを受け入れる体制が整っているんだと思う。
Bingに関しては、日本はまだベータ版。
あまり使ったことなかったけど今日の話を聞いて予想以上に便利そうだと思った。
マイクロソフトは長期的に検索に取り組んでいくつもりということ。検索が今以上に便利になっていくのはすごく嬉しい。
日本で流行らせるにはブランディングが重要な気がする。
日本人は全体としてGoogleよりYahoo使ってる人の方が多いみたいだし。
デザインにおける知の構造化
岡瑞起さんのお話。
人間の行為をよりよい形で適えるためのデザインプロセスの研究。
デザインプロセス
- Observer & Understand
- ユーザを観察し、理解する
- 定性と定量、潜在と顕在でマトリックスにして考える
- 定性で潜在:エスノグラフィ
- ユーザの日常行動を観察
- ユーザ行動を深く理解し、認識されていない問題や機会を発見
- 定量で潜在:データマイニング
- 大量のデータから自明でない現象、パターンを発見する
- 自明でないかは文脈に依存
- Synthesis
- 集めた情報を統合。
- Brain Storm & Prototype
- Visualize → Realize → Evaluate → Refine → Visualizeというサイクル。
- パターンを発見。問題を発見。
- Implement
- 実装。
実例
- 多摩美術大学の図書館。
- Twitterを利用して、人の行為と場所を可視化。そこから何が必要かを見出してデザインに反映。
- 書籍化されている。
- 作者: 鈴木明,港千尋,多摩美術大学図書館ブックプロジェクト
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感想
人に役立つためのデザインをどのようなプロセスで創りだすのか、その方法論がすごく参考になった。
Twitterを利用して日常行動を観察しようという試みが面白い。ただ、確かに「スタバなう」みたいなweb上での言い回しをコンピュータに理解させるのは難しそう。
ウェブ時代の学術情報流通支援
国立情報研究所の大向一輝さんのお話。
- 巨人の肩の上に立つ
- 高いところから遠くまで見渡せる状態
- 過去の蓄積=巨人
- 過去の蓄積により、遠くがより見渡せるようになる
- モノとして論文を流通させるシステム
- 国内最大の論文検索サービスCiNii Articles - 日本の論文をさがす - 国立情報学研究所
- 学術情報サービスをオープン化する
- コンテンツ、ユーザ、アクセス手段のオープン化
感想
論文に関しては、いつも見たいと思っていたけど、なかなか検索結果に出てきてくれなかったから、CiNiiというサイトを知ることができたのは嬉しい。
サイト見てみたら、すでにかなりブックマークされてた。有名なサイトだったんだ。
トークセッション
会場から面白い質問が出たのでいくつか紹介。
- OSの情報を検索結果に反映させようとしているGoogleの動きをマイクロソフトはどう見ているのか?(マイクロソフトの鈴木さんへの質問)
- マイクロソフトは二番手戦略。アメリカは倫理にうるさい。だから一番手をGoogleにやってもらって、様子を見てどう動くかを判断する。マイクロソフトの歴史では基本的に二番手戦略。
- 論文検索をするときに、あることについて賛成の論文なのか、反対の論文なのかを分類して表示して欲しいが、そうする予定はあるか?(国立情報研究所の大向さんへの質問)
- 将来的には内容解析をして、そのように表示できるようにしたい。
参考
- 開催しました! / ブログまとめ(1) « Um blog : o blog dos pessoais do WCJ 2009
- Wikimediaカンファレンス2009: やまもも書斎記
- Wikimedia Conference 2009 presentation
- http://walrus.vox.com/library/post/%E7%9F%A5%E3%81%AE%E6%A7%8B%E9%80%A0%E5%8C%96%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%82%B8%E3%82%A6%E3%83%A0.html
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