顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか
- 作者: トニー・シェイ,本荘 修二,豊田早苗
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2010/12/03
- メディア: 単行本
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ダイヤモンド社から献本いただいた。
ザッポス・ドットコムは、2007年の米小売業協会の調査で、顧客サービスにおいて、ノードストローム(高級デパート)やオンライン販売トップのアマゾンを抑えて2位に選ばれている、伝説と逸話にあふれた靴のオンライン販売を行っている企業。顧客に感動を届け,利益を出し,創業10年で年商10億ドルを超えている。また、2009年から、フォーチュン誌の最も働きがいのがる企業100社にランキングされている。
本書は、ザッポスCEOのトニー・シェイ自らによって、「世界に幸せを届ける」こと、読者に幸せをもたらすだけでなく、読者が他の人をよりいっそう幸せにできるようにすること、既存の企業がよりよい企業になるきっかけとなることを願って書かれた。ザッポスという会社が、顧客から愛され、熱狂的な支持を受ける企業へと成長した道のりとその背景にある考えが描かれている。
トニー・シェイが初めて起業した幼少期からザッポスを自らの天職と見出すまでの過程、数々の失敗を経て得た人生の教訓や生きることの意味に対するトニーの考え方、彼に導かれたザッポスがどのようにして人々を惹きつけてやまない最高のカスタマー・サービスを実現していったのかがよくわかる。
本書を読めば、「人生の目標やよりよい生き方を見つけるヒント」と「顧客から愛される企業をつくる秘訣」が得られると思う。
目次
Part I 利益を求めて─ ザッポスへたどり着くまで 第1章 ただ、利益を追い求める日々 第2章 うまくいくこともあれば、いかないこともある 第3章 とにかく、あれこれやってみる Part II 情熱をかけて─成長の設計図 第4章 自分の役割に集中する 第5章 成長へのプラットフ ォーム─ ブランド、 企業文化、 パイプライン Part III 人生の目的にたどり着く─ 幸せを届ける会社に 第6章 次のレベルへの進化 第7章 エンド・ゲーム
ポイント1 人生の目標やよりよい生き方を見つける
常に機会を追求し、思いついたら行動する
- トニーは9歳からビジネスをはじめていた。最初はミミズの養殖、中学生ではバッジ製造業、高校では手品グッズの通信販売ビジネス、大学では学生食堂の運営、新入社員時代には、企業のウェブサイト作成のサイド・ビジネスに挑戦した。利益をあげたものもあれば、まったく利益がでなかったものもある。
- 彼は常に、「どうしたらもっとお金を稼げるか」ということを考えていた。可能性のありそうなビジネスはとりあえずやってみるようにしていた。そして、その数々の経験から、ザッポスの経営手法へとつながる教訓を得た。
お金を儲けることが幸せにつながるわけではない
- 昔はただお金儲けをしたいと思って会社を経営していた。お金が手に入れば嬉しいし、資金があれば事業の可能性も広がった。お金を儲けることは悪いことではない。しかし、自分にとっての幸せは、お金を儲けることではないと気がついた。立ち上げた「リンクエクスチェンジ」が急成長し、顔も覚えられないくらいに社員も増え、経済的には大成功を収めることができていたにも関わらず、そこで働くことに楽しさを見出せなくなってしまったからだ。
- 幸せとは人生を楽しむことであるのに、多くの人が、「お金がたくさんあること」=「成功と幸せ」だと思い込んでいる。
- 自分の過去を振り返ったとき、幸せを感じたどのときもお金が伴っていないことに気づいた。何かを作っていたり、創りあげたものを育てたり、それに情熱を傾けているときが楽しい時間だった。そしてその楽しくワクワクすることを、仲間と一緒にするのが幸せであった。
- 金銭を追い求めるのをやめ、情熱を追い求めるようになった。
幸せのフレームワーク
- 人生のゴールは何ですか?と質問をして返ってくる答えが何であっても、それに対して「なぜ?」という問いを繰り返せば、最終的に「幸せになる」という答えに行き着く。
本書では、幸せのフレームワークが3つ紹介されている。どれもなるほど、と思ったが、その中の1つを紹介。
- 幸せのフレームワーク2
- マズローの欲求段階説は、三段階のビジネスの目的に凝縮される。
- 顧客:1.期待を満たす → 2.欲望を満たす → 3.意識していないニーズを満たす
- 社員:1.給与 → 2.評価 → 3.働く意味
- 投資家:1.短期の投資 → 2.長期の投資 → 3.後世に残る投資
- ザッポスの顧客の欲求段階
- 正しいアイテムを受け取る(期待を満たす)
- 送料無料(欲求を満たす)
- 翌日配達へのサプライズ・アップグレード(意識していないニーズを満たす)
- マズローの欲求段階説は、三段階のビジネスの目的に凝縮される。
※マズローの欲求段階説(自己実現理論 - Wikipedia) いったん生きるために必要なこと(食物、安全性、住居、水など)が満たされると、人は社会的地位、達成感、創造性といった欲求によってより動機付けされるという説。
ポイント2 顧客から愛される企業のつくりかた
企業文化こそ、もっとも力を入れて創り上げるべきもの
- リンクスエクスチェンジの失敗から、トニーは「企業文化」こそが、企業にとって最も大事なものであるとの結論に至った。
- 企業文化が崩壊したリンクスエクスチェンジでは、利益こそあがっていたが、社員同士の繋がりはほとんどなく、みんなで一緒に楽しくワクワクするものを築き上げていこうという一体感や、会社への愛がなかった。その結果、自身が創設した企業であるにも関わらず、トニーも情熱を傾けることができなくなった。
- 逆に、企業文化を最初にしっかりと築き、それに合う人を集めた結果、ザッポスは社員からも顧客からも愛される企業へと発展することができた。企業文化を最初にきちんと設定することができれば、最高のカスタマー・サービスへとつながるブランドはおのずとできあがる。
ブランドを構築するための最善の方法
- 今日、企業のブランドは、多額の広告費を注ぎ込んで人々に伝えても構築できない
- ブランドに対する顧客の認識に影響を及ぼす接点は、すべての社員にある
- ブランド構築の最善の方法は、企業文化を設定すること。そして企業文化に合う人のみ採用し、企業文化を維持すること
- 企業文化が設定されれば、それを体現する社員によって、最高のカスタマー・サービスと、ブランドの構築が可能となる
カスタマーサービスによるブランディング
- この何年も、ザッポスの成長の一番の原動力となっているのがリピート顧客とクチコミ
- 広告にはほとんど費用をかけず、その費用をカスタマー・サービスと顧客体験に投資している
- 会社がマーケティングを行うのではなく、顧客にクチコミでマーケティングを担ってもらおうというのが、ザッポスの哲学
- ザッポスのカスタマーサービス
- 顧客ができるだけ簡単でリスクなく取引できるようにしている
- お届けと返品の両方で送料無料
- 365日間返品可能
- コールセンターは大きなチャンスと考えている
- どの電話やメールも最高のカスタマーサービスと顧客体験をつくるザッポスというブランドを構築する機会と考えている。その機会を使っていつまでも記憶に残る思い出を生み出せるように心がけている。
- 5分の間顧客の注意をこちらに向けさせられると同時に、ここできちんと対応すれば、顧客はこの体験をいつまでも記憶にとどめ、友人たちに話してくれる。
- クチコミマーケティングになるだけでなく、顧客の障害価値を高める可能性もある。
- 顧客を驚かせるサービス
- ロイヤルティの高いリピート顧客には翌日配達へのアップグレード
- 自分たちの在庫にない特定のスタイルの靴を探している顧客から電話があった場合は、競合他社すくなくとも三社のウェブサイトを調べ、在庫を見つけたときは顧客に他社のサイトを教えるように訓練されている。
- ブランドのためによいことをする権限を社員に与えている。
- 顧客ができるだけ簡単でリスクなく取引できるようにしている
ザッポスの企業文化
ザッポスの文化は10のコア・バリューとして定められている。
1.サービスを通して「ワオ!」という驚きの体験を届ける ⇒驚かせるには、期待をはるかに超えたことをしなければならない。 2.変化を受け入れ、変化を推進する ⇒窮地に陥る会社は昔から変化への適応ができない会社。絶え間ない変化を歓迎し、さらに変化を推進する。 3.楽しさとちょっと変なものを創造する ⇒楽しく過ごせるように心がけると、誰とでもwin-winの関係になれる。 4.冒険好きで、創造的で、オープン・マインドであれ ⇒リスクをとることを恐れず、失敗することを怖がらない。 5.成長と学びを追求する ⇒自分の力を解き放つには、自分自身が挑戦したい、能力を伸ばしたいと思わなければならない。 6.コミュニケーションにより、オープンで誠実な人間関係を築く ⇒オープンさと誠実さが最高の人間関係を生み出す。 7.ポジティブなチームとファミリー精神を築く ⇒最高のチームとは、一緒に仕事をするだけでなく、職場の外でも付き合うようなチームである。 8.より少ないものからより多くの成果を ⇒常に効率的にする努力をし、常に改善の余地があると考える。良い状態で満足せず、さらに上を常に目指す。 9.情熱と強い意志を持て ⇒情熱は自分をザッポスを前進させる燃料。情熱と強い意志は人から人へと広がる。 10.謙虚であれ ⇒常に全ての人を尊重すべき。
企業文化を守り、維持する秘訣
以下のことが企業文化を守り、維持する秘訣であり、短期的には損するかもしれないが、長期的な利得をもたらす。
- 採用や解雇の判断は、このコア・バリューに基づいて行う。
- 売上げや利益に直ちに貢献してくれるであろう優秀な人でも、コア・バリューに反する人は採用しない。
- コア・バリューに則った行動をとる社員は、ブランド・アンバサダー(ブランド親善大使)となる。
- 社員は全員、あらゆる行動において、コア・バリュー則っていることを望まれる
- 勤務評価の大部分は、コア・バリューに基づいて行われる
- このザッポスの企業文化をすべての社員が楽しんでいる
- この企業文化こそが、ザッポス伝説を創りあげた礎である
感想
本書を読んで、人生と仕事について改めて考えさせられた。もう一度、生き方や仕事に対する姿勢を見直してみようと思う。
顧客だけでなく、社員からも絶大な支持を得る企業には、やはりそれなりの理由があるということもわかった。企業文化を最も大切にするという点は、リッツカールトン、スターバックス、サウスウエスト航空などの企業の本でも語られているが、そこにたどりつくまでの軌跡が書かれている点でより納得感が得られた。また、ザッポスの面接の質問例が載っているのも興味深かった。応募者は、既成概念にとらわれないこと、創造的であること、リスクをとることに前向きであることをチェックされる。
本書では、トニー・シェイの生い立ちが、本人によってリアルに綴られている点も面白い。成功する企業の創り方がわかるだけでなく、人生に対して考えを深めたり、価値観を形成する助けとなる。トニーは、崇高な目的を意識して生きていて、その達成に向けてあらゆる活動を行っているように感じた。最後に、以下の言葉が紹介されていた。
「目的を持って歩むと、必ず運命にぶつかる」 バーティス・ベリー
改めて、目的を常に意識して生きていきたいと思った。
経営に興味がある人や経営に携わっている人、これから働こうと思っている人には特に読む価値があると思う。
顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか
- 作者: トニー・シェイ,本荘 修二,豊田早苗
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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